柔術やグラップリングを始めて数年が経ち、基本動作やムーブメントが身についてきた初中級者の皆さん。こんな疑問を持ったことはありませんか?
「道場で同じだけ練習しているのに、なぜかあの人だけ上達が速い」
この差は、実は才能や運動神経だけではありません。
最大のカギは、日々の練習の土台となるドリル(打ち込み)練習の質と、それに取り組む意識にあります。
本コラムでは、伸びる人と伸びない人を分ける決定的な違いを解明します。
そして、尊敬するトッププレイヤーの哲学と、筆者自身の体験談から導き出した上達を加速させる環境づくりについてお話しします。
伸びない人が陥りがちなドリル3つの罠
ドリルは技を身体に覚え込ませるための重要なプロセスですが、意識一つでただの作業になってしまいます。
伸び悩む人が共通して陥りがちな3つの罠をチェックしてみましょう。
1:目的意識の欠如による作業化
「10回やればOK」と回数をこなすことに終始し、なぜこの動きをするのかやこの技の目的は何かを理解していません。
相手の動きや抵抗を想定せず、表面的な形だけをなぞるため、動作が形骸化し、いざ実戦になるとドリルでやったはずなのに使えないという壁にぶつかります。
2:間違ったフォームの定着によるスピードや力への依存
動作の正確性や体重移動よりも、早く動くことや、力で無理やり形を作ろうとしていませんか?
初級者のうちはごまかせても、間違ったフォームや癖が定着すると、上級者には瞬時に見抜かれて通用しなくなります。
効率的な体の使い方が身につかず、いつまでも力任せの柔術から抜け出せません。
3:フィードバックの無視による内省の欠如
ドリル中に自分の体の使い方を細かくチェックせず、できたかどうかをパートナー任せにしていませんか。
成功や失敗の原因を自分の体の感触として記憶できなければ、上達は遅くなります。「どこに圧力をかけた時がベストだったか」「体幹がブレたのはなぜか」といった内省がないと、同じミスを永遠に繰り返すことになります。
伸びる人の決定的な3つの習慣
一方で、上達の早い人は、ドリルを作業ではなく成長の機会と捉え、次の3つの習慣を無意識に行っています。
1:目的を明確にした実戦シミュレーション
伸びる人は、ドリル中も常に実戦を想定しています。
ただの反復ではなく、「相手がこう抵抗してきたらどうなるか」「この技の次はどこに繋げるか」と頭の中でシミュレーションを行い、一挙手一投足に意味を持たせています。
彼らにとってドリルは、次の展開への準備練習なのです。
2:完璧なフォームを追求する探求心
常になぜこの形が基本なのか?を問い続け、重心、てこの原理、関節のロックといった技術的な根拠を理解しようとします。
パートナーに最も力が伝わらない、効率の良い場所はどこかを尋ね、最小の力で最大の効果を出すことを目指す探求心こそが、技術を深く理解する鍵です。
3:体の感触を言語化する力
彼らは動作の成功 や失敗を、手のひらの圧力がどうか、体幹がブレていないかなど、具体的な体の感触として記憶します。
そして、ドリル後や休憩中にその感触を頭の中で再生・修正し、「今の動きは軸がブレた」「次はこの部分を改善しよう」と内省する時間を作ります。
これが、失敗を成長の糧に変えるサイクルを生みます。
上達を加速させる環境と哲学— トップ選手の教え
上記の質の向上に加え、上達のスピードを劇的に変えるのが環境とやり込みの哲学です。
上達のスピードを変えるドリル仲間の力
筆者が柔術の練習を通じて痛感したのは、同じ課題を持つ仲間の重要性です。
ただの練習パートナーではなく、「今月はベリンボロをマスターする」「このスイープの完成度を高める」といった共通の目標を持って、しつこく反復するドリル仲間を作ること。
習慣化がしやすくなるだけでなく、お互いのフィードバックを通じて多角的な視点が得られ、反復する速度が飛躍的に上がります。
共に高い意識で練習できる環境を作ることが、自身の成長を加速させます。
尊敬するトッププレイヤーのやり込みの哲学
世界で活躍するトッププレイヤーの技術を見ると、まるで動画で観たものがすぐにできる天才のように感じられます。
しかし、実際に話を聞いてみると、彼らの言葉には共通する技術習得への徹底したやり込みの哲学がありました。
彼らは、ただ技術を覚えるだけでなく、スパーリングや試合で使えるレベルにするまでには、途方もない量のドリルを繰り返しているのです。
この使えるレベルにするためには、以下の3つのStepに分けて反復します。
Step1: 打ち込みで正確にやってみる
動画や人から教えてもらった技を、まずはフォームと動作の原理を正確に習得するために身体に覚え込ませます。
このフェーズを何回も繰り返し行うことで形になります。
Step2: 実力差のある人とのスパーリングで試してみる
プレッシャーの少ない環境で、実際のタイミングや距離感を試してみます。
この時点でうまくいかなかったらStepの1と2を行ったり来たりして精度を高めます。
Step3: レベルが拮抗している人に試してみる
レベルが拮抗している相手の抵抗相手の抵抗を乗り越えるために、スパーリングで何度も、何人にも試してみます。
様々なシチュエーションで繰り返すことで自分の技として昇華させます。
この3つのStepを何度も何度も反復することで、技は道場で習ったテクニックから自分のものへと変化し、無意識に反応できるレベルにまで身体に覚え込ませるのです。
上達の速さは、才能だけでなく、この反復の量と質が決定していると言えるでしょう。
【まとめ】明日からできる具体的なアクション
やるべきことはいたってシンプル!以下をまず意識してみてください。
✔意識改革
打ち込みの際、今日は実戦で使えるレベルにするための最初の10回だ!などと意識して取り組んでみましょう。
✔仲間づくり
クラスの中でこの技を一緒にやり込もうと声をかけるドリル仲間を1人見つけるましょう
あなたの柔術・グラップリングライフが、質の高いドリル練習によってさらに充実したものになることを願っています。
伸びる人と伸びない人の違いは、練習時間ではなく、目的意識や探求心、内省力というドリルへの意識、そして良質なドリル環境と徹底したやり込みの哲学を持つかどうかにあります。
初中級者である今こそ、技術の土台を固めるためにドリルの質にこだわりましょう。
明日からの練習で、この意識改革を実行することが、数年後の自分とライバルとの決定的な差を生み出します。



